てんかんと作業所11-12

  1. 作業所設立までの働く場に対する試行錯誤 一なぜ作業所が必要だったか一
  2. 設立に関わった人達の願いと働き 一それぞれに応じた働く場を一
  3. 作業所から親子が得たもの 一作業所ができるまでとできてからの親と子の変化一
  4. 行政の窓口はどこ? 一制度・計画に含まれることの必要性一
  5. 作業所の仲間達
  6. 仲間に合わせた仕事づくり
  7. 仲間の給料
  8. 仕事を通しての仲間づくり
  9. 仲間自身によるミーティング 一利用者主体の作業所をめざして一
  10. 仲間どうしのつながりを大切に 一一人一人の個性が考慮され、人が人のなかで認められる集団づくり一
  11. 作業所から就職へ 一のぞみ共同作業所の試み一
  12. てんかんの人の多様な働く場の必要性と全生活の支援を(最終回)
てんかんと作業所について、日本てんかん協会機関誌「波」1999年4月-2000年3月号 まで12回連載された記事です。この特集についてのご意見ご感想を メールでお寄せ下さい。
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てんかんと作業所11

作業所から就職へ
一のぞみ共同作業所の試み一

のぞみ作業所所長 野島ひろみ さざなみ福祉会代表 下川悦治


北九州市での作業所の開設まで
 1994年に福岡市であかり共同作業所が開設され、政令市の北九州市にも在宅の人がいるということ で、亡くなられた初代の所長など在宅の仲間をもつ親の方が努力され開設にこぎつけました。1996年4 月北九州市小倉北区のアパートから出発しました。その頃、北九州市では新しい「障害者計画」が策定 されようとしていました。市の方や支援される方々のご尽力で全国初めて「計画」にてんかん単独の章 が設けられました。


北九州市障害者施策推進基本計画 平成8年4月
(11)てんかん、自閉症又は難病に起因する障害のある人に対する支援

[基本的方向]
○障害者基本法の制定の際の附帯決議において、「てんかん及び自閉症を有する者並びに難病に起因する 身体又は精神上の障害を有する者であって長期にわたり生活上の支障があるものは、この法律の障害者の範 囲に含まれるものであり、これらの者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めること」とされている。
 てんかん、自閉症又は難病に起因する障害のある人に対しても、こうした観点に立った施策の推進を図る。

[共通する取組み]
○患者団体(日本てんかん協会福岡県支部、福岡県難病団体連絡会北九州市支部)における情報交換、相 談等の会員支援活動を支援する。また、患者団体と行政機関の連絡を密にする。
○保健福祉センターの地域担当の保健婦による訪問指導を推進する。
○医師会の協力の下、専門医に関する情報収集・提供、専門医とかかりつけ医との連携方策を検討する。
○医療に関する情報のほか、生活や福祉に関する情報を積極的に広報する。

[てんかんを有する人についての取組み]
○てんかんについては、障害者基本法の制定の際に示された注解釈により、精神障害と位置づけられた。 てんかんを有する人特有の二一ズや問題状況に留意しつつ、精神障害者に関する諸施策の対象にはてんか んを有する人も含むものとして取組みを行う。
○現実には知的障害とてんかんが重複している場合も多いことから、施設利用等の面で、知的障害者施策 においても留意する。


就職への取り組み
@精神障害者職規制度利用『Hさんの場合』
 作業所開設して1年後の1997年4月には、はじめての就職退所者がありました。このケースは他のケー スと違い通院されている病院のソーシャルワーカーと地区担当の保健婦さんのお世話で『職親制度』を 利用して訓練を受けることになりました。1日2000円が会社に支給され、その内の900円を本人に払い 又、3年間の期限があります。ちょうど3年の期限がきますが、不況の事もあり、心配しているので 「もう一度ソーシャルワーカー、保健婦さんとよく話し合い、決まらなければ作業所に戻って改めて相 談していくつもりです。

A障害者雇用促進事業『Kさんの場合』
 Kさんは、クモ膜下の後遺症で『てんかん』発作がありました。通所してくるうちにKさんの発作は 時間が決まっていて10時から12時までには3回、12時から2-4回、特に3回目は12時5分前といつも 時間が決まっていました。そのうちに発作の回数が減り、本格的に就職活動に入りました。保健婦さん、 ハローワークの障害者の担当の方と本人、母親も同席したうえ、もう一度就職希望の確認をしてを見つ けることになりました。入社4日目に発作があり、その時点で解雇をハローワークに連絡がきたそうで す。すぐにハローワークの担当の方が会社に出向いて「しばらく実習という事で様子を見て欲しい」と説 得され、家族と作業所の職員、保健婦さんを交えて本人も納得のうえ実習研修となりました。
 その後は会社では発作もなく4月には正式採用となり、現在も働いています。

B知的障害者福祉工場への就職『Iさんの場合』
 11年の4月に福祉工場の欠員が出る事をハローワークから連絡受け、本人と父親が直接リサイクル工 場で面接を受け、合格しました。工場はIさんの家から5分の所にあり、毎日元気に通っています。Iさん は人好き合いがいいのですぐに仲間達とうちとけたそうです。

C就労体験支援事業『Yさんの場合』
 Yさんは缶びんリサイクル工場が不合格の後、ハローワークのお話を母親と聞き、見学に行きました。 見学後、家族と話し合い、よい経験になるのではと考え、研修を受けて見ることになりました。研修が 始まり、週に一度はハローワークの方や保健婦さんも様子を見に行かれ、精神的にバックアップしてい ただきました。10日目に発作があり、パン工場の部長さんに報告すると「発作があっても気にしなくて いいよ、ある時は座っていなさい」と言われて気持ちが楽になり、このまま勤められるといいのにと思 ったそうです。研修の前は就職につながらないといわれていましたが、Yさんの6ヶ月の頑張りが認め られ、11年の5月から正式に入社しました。研修期間は国から会社を経由して月2万の給料が出ていま した。

地域のネットワークに支えられて
 このように就職した利用者が2年間で5人います。作業所では珍しいことです。その大きな力にな っているのがハローワークのみなさん、保健婦、障害者職業センターのカウンセラー、精神保健福祉セ ンターなど地域の社会資源のネットワークが有効に働いているからだと思います。本人の就職への意欲 もあります。しかしながら、就職が決まったから心配がないわけではありません。働きながらの問題を もハローワークの方の援助で解決したことも少なくないのです。作業所としては運営委員会の意見をも とに、作業所OB会をつくり、就職した仲間達がお互いに励まし合う場を続ける努力と、作業所に立ち 寄るたびに話を聞いたりして援助をしています。

社会福祉法人への参加
 のぞみ共同作業所には、てんかん協会の会員を中心に参加していくのが他の作業所と違う傾向があり ます。それは、協会の北九州市分会の活動と作業所が密接に関わっているからです。

 そのひとつに、北九州市では、精神障害者の施設づくりのために社会福祉法人を市が設立し、そこで 運営していくこと方法がとられています。この法人は授産施設と生活支援センターを今年スタートさせ ます。その理事にてんかん協会から代表者を派遣しています。作業所としての役割・協会の役割がそれ ぞれの役割を果たすことで、てんかんをもつ人の社会参加の選択肢を増やしています。

お知らせ「てんかん分野の作業所交流会準備会報告集」は日本社会福祉払済会の助成で発行し ています。ご希望の方はさざなみ福祉会まで連絡下さい。
電話・FAX092-873-0959 送料が必要です。


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てんかんと作業所12(最終回)

てんかんの人の多様な働く場の必要性と全生活の支援を

さざなみ福祉会代表 下川悦治


 連載の終わりにあたって私達の実践の意味について改めて確認しておきたいと思います。

在宅の仲間がいなくなるために
 てんかんは病気なので治るまで待つという生活を多くの人たちは長い間とってきました。「患者」と しての生活は瞬く問に過ぎ、30才・40才を迎えていくことになります。その間の在宅している仲間の生 活は充実しているのか。このままでよいのか。私達の取り組みはそこから始まり、てんかん協会の支部 として雇用の場を確保しようとしたりしました。しかし、また在宅に戻っていく人を見てきました。そ こから、就労のひとつの取り組みとしての作業所運動を始めました。その実践についてこの連載で報告 してきましたが、まだ多くの不充分さと困難を抱えています。

 在宅している人たちの生活はどうでしょう。99年のてんかん協会の全国大会で配られた大阪府支部の アンケートにこんなことが書かれていました。

◎家の中だけの生活で、朝昼夜のけじめがついていない。自分の身の回りのことは自分でしてほしい。
◎家族の中で協調性がなく、父母とは特に合わないので困っています。
◎食事なども一緒にしようとしない。
◎家族3人(本人と両親)ですが、放っておくと寝てばかりいて(薬のせいもあるが)どこへも夫婦で出かけるこ とができない。
◎年齢とともにますますやりにくくなってきた。将来が心配。昼間寝て夕方起きて、テレビを見て昼夜逆転の生活 が続いている。
◎生活のリズムを作ってやりたいのですがどのようにすれぱよいのか私自身わかりません。
◎いつどこで発作が起きるか分からないので常に行動を共にしないと不安。
◎精神的に不安定で仕事に集中できない。

 ここで書かれていることはどこにもあることだし、私達も同じ声を聞き、見てきました。在宅を余 儀なくさせられているという事実・悩み・願いをどう受け止めるか、何をすべきかを論議すべきだと思 います。それは1人の人間として充実した生活を送りたいという切なる願いにどう応えるか。行政も、 私達も問われているのだと思います。医療で発作を軽減することも大事ですが、それだけで、QOL【生 活の質】が向上するとは言えない人も沢山います。

作業所の役割
 作業所はたんなるたまり場ではありません。働くことを目的にした場です。
@本人の働く力をつける。
A安心して働ける環境をつくる。
B対人関係を豊かなものにする。
C賃金を得る。
 これらは、障害をもたない多くの人たちが得ている生活です。障害のために、それを得ることが難し い仲間が「地域で暮らすために必要な場」のひとつが作業所です。作業所を利用することで生き生きと した表情を取り戻し、表情が豊かになっていくのはなぜでしょうか。ごく当たり前の生活が人としての 尊厳を回復していくのだと思うのです。私はてんかんだけど障害者じゃないから、作業所なんかには行 かないという人もいます。作業所は雇用につながるまでの「社会復帰」までの仮の場所だという人もい ます。てんかんには差別があるという人が障害者は劣った人という見方が根強くあります。「仮の場所」 として社会参加の場と思っていない人の「社会」とはどんなイメージでしょうか。作業所は働く場とし ては一流の場です。それは企業に比べてなんと「人間らしい場」かということです。

作ってからが大事
 作業所は作ればいいわけではありません。その中味と実践をどうするか。内容次第で利用者の働く力 つけていくことや生活に大きな差が生まれてきます。「作ってやった」というおしつけが無意識にで もあれば、作業所の本来の機能を果たせません。作業所の職員には専門性を、家族には民主的な運営を 支えていくことが求められます。勿論、作業所の補助金が低いと職員を雇うのが困難なこともありま す。それでも、作業所の主人公は利用者だということを片時も忘れてはならないと思います。

 共同作業所というのは、利用者を中心に・家族・職員、地域の方やボランティアなど多くの人たちで 作業所を育てていくことを意味しています。しかしながら、関係者で様々な意見の対立などから運営が うまくいかなくケースが少なくないという面もあります。その発端は金銭問題やワンマン運営だったり です。民主的な運営を、運営委員会を軸に進めていくために、問題をきちんと整理して方針を出してい く努力が不可欠です。

 あくまでも作業所は「利用者が主人公」であり、そのために何が求められるのか。そこから問題をと きほぐしていくことです。

制度としての確立を
 小規模作業所は5000ヶ所を超え日々増え続けています。しかし、法的には「無認可作業所」のままで す。課題を列挙しますと
@都道府県の補助金制度はありますが、地域間の格差が大きいままです。
Aその地域間格差の上に身体障害者・知的障害者と精神障害者の作業所の障害種別の格差もまだ大き いところが多い。
B国の補助金制度がありますが、どの作業所でも受けられるわけではなく、額も110万円と低額です。
C福岡市の調査でも、重度の障害者の利用が過半数を占め、認可施設に匹敵する人が利用しています が、認可施設との補助金の格差は福岡市で2倍以上あり、他都市では数倍にもなります。

 このように重要な社会資源として利用されながら、職員は低賃金であり、家族共々運営に苦労して います。法的に位置付けを明確にし、必要な支援をしていくことだと思います。

 もうひとつは、てんかんの法的位置付けです。精神保健福祉法の対象とされていますが、てんかんだ けの施設づくりを希望しても、「てんかんだけでなく」という言葉が返ってきます。てんかんが便宜的 に精神保健福祉法に組み入れられたのですが、てんかん独自の施策を行なう必要性を認めてもらうこと がとても難しくなっています。障害種別でなく、「総合的福祉法」の制定で施策の体系を抜本的に変 えていくことが必要です。

1人の大人としての生活できる条件は
 作業所は働く場ですが、そこで私達はてんかんをもつ人が抱えている困難を深く、広く教えられまし た。てんかん協会の活動では見えないことが沢山あります。それを解決していくにはまだまだ力不足で すが、地域で働き・暮らす権利をどう保障していくかは社会の責任でもあるとの基本的な立場で活動し ています。そのためには、働く場・生活の場・生活を支援する機関が必要です。それを実現するには多 くの市民の支援がなければ難しいことばかりです。1人の人間として尊重される生活を送るためには課 題が山積しています。でも、あせらず、じっくりと1人ひとりの願いが実現できるように考えていくこ とだと思います。

 各地で作業所運動が始まっていますが、いくつかの留意点を挙げたいと思います。

@なぜ、作るのか、きちんと設立母体で論議することが大切です。その討議の中で作業所のイメージ ができてきます。
A作ることが目的でないことは先に述べました。どんな作業所をなぜ作るのか、場づくりだけに目が 向いて民主的な運営をどうするかなどの方針が軽視されている傾向が見えます。それは運営を困難 にするだけでなく、利用者を失望させることになります。どのようなものにしていくか。地域の作 業所などとの連携を必ずとることです。
B作業所は人を相手にした仕事です。それは利用者だけでなく作業所を取り巻く人達との連携がとれ ないとできない仕事です。地域の人たちとの連携がとれないのであれば作業所の運営はできませ ん。
Cてんかん協会の支部と作業所は別個のものとして運営機関を設立し、支部とは協力関係を確認する ことで、相互の良好な関係が維持できます。

 各地の経験に学びながら、連携していくことが今てんかん分野で最も必要なことだと感じています。 てんかんの発作が止まればそれは良いことですが、生きていくことを困難にさせるのは発作だけで はありません。私の体験からも痛切に感じます。

 「患者」としてでなく「てんかんをもつ人」が自らの尊厳を回復し、人として尊重される場としての作 業所づくりが切に求められています。

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