3、てんかんは忌まわしい病名か


           秋元 波留夫先生のご講演「てんかん・21世紀への展望」から抜粋しました

           「明るく生きるてんかんの時代」、てんかんを考える会編、萌文社、pp.29-32、2000 


 現在、わたくしたちが用いている「てんかん」という病名は、西欧諸国で広く使われている エピレプシー(Epilepsy)よりも起源の古い、古代中国医学、世紀前二〇〇年頃、万里の長城 を築いた秦の始皇帝の時代、宮廷臣たちによって編纂された中国最 古の医書である「黄帝内経大素」に由来する用語ですが、「癲癇」 という漢字が難しいから仮名で書くようになって、いっそう意味が わからなくなった嫌いがあります。

 今日のてんかんを意味する言葉として最初に用いられたのは「癲」 で、癲疾とか癲病という言葉が使われました(表1)。



 漢字の「癲」は顛倒の顛をやまいだれで囲んだもので、「倒れる 病」という意味であり、英語でてんかんを意味する「倒れる病 (falling sickness )」とまさに符合しています。

 「癇」はひきつけ、けいれんを意味する言葉で、もとは小児てん かんを意味する病名でしたが、「癲」と「癇」を合わせた「癲癇」 という用語が使われるようになったのは、唐の時代(六一八〜九〇七年) の末、わが国では九世紀の初頭に編纂された「千金方」以後 で、漢方医がこの病名を用いるようになりました。

 このように、「癲癇」という言葉は、てんかん発作の代表ともい うべき大発作である「倒れる病」という意味であり、合理的・科学 的です。それに対して、西洋でひろく用いられているエピレプシーのほうは、その語源である ギリシア語のエピレプシア (Epilepsia) は、「とらえる (seize)」、「襲う (attack)」という意味 で、てんかん発作を超自然的な力の仕業と考えた古代人の神秘的解釈を反映する非科学的とい っていい言葉であります。

 この病を表現する用語としてエピレプシーよりもてんかんのほうがはるかに合理的・科学的 だといってよいでしょう。

 てんかんという病名に対して、これを「忌まわしい、恥ずかしい」から改めたいという意見 が家族、関係者の一部に根強いことをわたくしは承知しています。しかし、いま、お話したて んかんという言葉の起源から明らかなように、この言葉それ自体は「おぞましいもの」でも、 「忌まわしいもの」でも、「恥ずかしいもの」でもありません。それはこの病の特徴を的確に捉 えた科学的な言葉といってよいものです。てんかんと呼ばれることが「おぞましく、忌まわし く、恥ずかしく」感じるのは、てんかんという病名のせいでは決してありません。この病気の 本態、治療の科学的研究がこれまで不十分であったために、この病気をめぐって「おぞましく、 忌まわしく、恥ずかしい」病気であるという偏見、迷信が世界の至る所の世論を形成し、当事 者、家族もこの世論に惑わされてきたためなのです。

 いま必要なことは、てんかんという病名を変えることではなく、てんかんという病の研究を 促進すること、さらには、この病にまつわる偏見、迷信を打破する運動を展開することです。 そのためには当事者、家族がまずおのれの偏見を捨て去ることが大切です。わたくしは、てん かんという病名を改める合理的な理由、根拠は全く存在しないと思っています。



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