成人における発作誘発因子とその対策


日本てんかん協会機関誌「波」2月号4-7ページ(2000)
Last updated Jun.19.2001


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成人における発作誘発因子とその対策
発作誘発因子になるものは?
それらに対する対策は?

東邦大学大森病院精神神経科 広瀬芳史 川名明徳




<はじめに>
 「てんかん」とは何かということは、すでにもう皆さんはご存じのことと思います。再度確認 の意味も含めて「てんかん」の定義について触れておきたいと思います。WH0の定義によ りますと「てんかん」とは@大脳の神経細胞の過剰発射(異常な興奮・脳波上の発作発射)に よって引き起こされる、A反復する発作(てんかん発作)を主症状とするもので、Bいろいろ な原因によって生じた慢性の脳の病気である、としています。したがって、脳波で異常が認め られたり、同じ発作が繰り返し起こることが確認されなければなりません。ただ1回だけでの 脳波検査では、異常が出現しないこともありますので繰り返し検査をすることが必要です。

<てんかんの原因>
 てんかんの原因としては大きく2つに分けられます。一つは脳に損傷がありその損傷が原因 となる場合(これを器質性と呼びます)と、もう一つは脳に損傷がなく神経細胞の働きの異常 による場合(非器質性あるいは機能性と呼びます)です。しかし、脳に損傷があるからといっ て必ずしもてんかん発作が起こるものではありません。

<発作誘因>
 てんかんの発作はこの原因以外に、てんかん発作を起こし易くする誘発因子(誘因)があり ます。ここではこの「誘因」についてお話します。

 誘因には次のようなものが考えられます。感覚刺激によって誘発される発作とそれ以外の誘 因による発作です。

 感覚刺激によって誘発される発作は一般的に「反射てんかん」と呼ばれ、たとえば光刺激に よる「光過敏てんかん」等のようにある特定の感覚刺激によっててんかん発作が誘発されるも のをいいます。ここでは「反射てんかん」以外の誘因について話を進めていきます。

 てんかん発作を起こしやすくする誘因には、睡眠不足、飲酒、精神的ストレス、発熱、過労、 月経、妊娠、出産、便秘などがあり日常生活の中で一般的に見られるものです。これらの誘因 は、単独あるいはいくつかの誘因が関連して発作を引き起こしやすくしますが、さまざまな誘 発因子が誰にでもあてはまるというものではなく個人によって差があります。

(1)睡眠
 断眠や睡眠不足などによる生体のリズムの乱れが発作につながる場合があります。例えば徹 夜マージャンやゲーム・深夜労働などに伴う睡眠不足によって脳の電気的活動の変化がおこ り、それが発作の誘因になったり、抑制されていた発作が再発するきっかけになったりするこ とがあります。しかし、極端な睡眠不足以外は発作の誘因につながることはあまりありませ ん。

(2)過労
 過労が発作を引き起こしやすい事はよく言われます。直接過労が発作を引き起こすというよ りは、睡眠障害や不規則な生活が身体的あるいは精神的な疲労を招くことによって脳の活動性 が低下し、そのことが発作を誘発しやすくなるのではと考えられます。しかしこの事について もはっきりしたことは分かっていません。

(3)飲酒
 アルコールが直ちにてんかん発作を誘発するか否かは明確ではありませんし、アルコールの 連用そのものがてんかんになるという証拠も明らかでありません。しかも最近の研究によりま すと適度な飲酒では発作が誘発されたり、抗てんかん薬の濃度に影響を及ぼしたり、脳波上で 発作波を増悪させることはほとんどないことがわかっています。

 しかし過度の飲酒が発作の誘因になることは経験的に認められています。特に過去にけいれ んの既往があったり、けいれんの素因のある人が多量のアルコールを飲用した時に限ってけい れんが出現することがあります。

 とくに慢性アルコール中毒者では、飲酒によりけいれん発作を起こすことがあり「アルコー ルてんかん」とも呼ばれます。この場合では慢性アルコール中毒により脳神経細胞に障害が生 じたり、アルコールによる代謝障害によりアルコールを飲用した時に限ってけいれんが出現す るのです。しかもけいれん発作は飲酒中には起こらず飲酒終了後数時間過ぎて血中アルコール 濃度が低下し、ほとんどゼロに近い「二日酔い」のころに起こることが特徴的です。これはおそ らく体内の化学変化、とくに細胞内外の水分の分布の変化が発作を引き起こす一役を演じてい るものと推測されています。したがって、慢性アルコール中毒におけるけいれんは離脱症状の 一つであっててんかんに由来するものではありませんので、てんかんとは区別する必要があり ます。

 これらの事柄を総合しますと、ストレス発散のためや円滑な社会生活を送るためにいろいろ な行事での適度な量のアルコール摂取ならばかまわないでしょう。しかし多くの場合、飲み始 めるとその適量を超えてしまい生活や睡眠が不規則になりがちですので、その意味からもアル コールはあまりお勧めできません。

(4)精神的ストレス
 精神的ストレスと発作の関係は必ずしも単純ではありませんが、精神的ストレスが持続しま すと、緊張したり不安を感じたり葛藤に悩むといった心理的状態が生じ、このような心労が発 作の誘因になってきます。またこのような状態は多少なりとも疲労倦怠感、不眠、食欲不振な どの身体症状を引き起こし、ひいては体調を崩し発作を増加させることにつながってきます。 例えば、学校や職場などでハードな勉強・仕事をしたり、身内の不幸や両親の不和など家庭内 で情緒的に不安定になったりする時期にしばしば発作回数が増えることがあります。ストレス や悩みが発作を誘発し発作自体がさらに不安を掻き立てて、ますます発作を起こすといった悪 循環を生じることになります。

 しかし一般に通常の仕事、勉強、遊びに熱中している適度な精神的緊張状態はむしろ発作を 抑制します。

(5)食生活
 刺激的な食べ物や香辛料、過食などが発作の誘因になるかどうかはあまり明瞭ではありませ ん。多くの御家族は発作の誘因としてある特定の食物(多くは刺激物)が関係あるように考え てしまうことも多いのですが、それらの多くは明らかな因果関係を証明することは困難です。 したがって過度に食事に敏感になる必要はありませんし、またむやみに制限することはかえっ て好ましくありません。むしろ規則正しい生活を送り、三度の食事をきちんと取り、食べ過ぎ に注意し、適度に運動をすることが発作への誘因を減少させ、健康につながります。

(6)喫煙
 タバコが直接てんかんを引き起こすことはありませんが、身体(肺・気管支・心血管系)へ の有害な影響を考慮する必要があるでしょう。

(7)運動
 一般的に運動を制限されることが多いのですが、適度の精神的緊張を伴った身体的活動状態 は発作を抑制する傾向がありますので、スポーツはてんかんを持つ人にとっても有益です。中 でも水泳は適度にはむしろ有益で、危険な場所以外は禁止する必要はありません。また運動に 伴う意識水準の上昇がてんかん発作発射の抑制に関与していることは一般にも知られていると ころです。

 学童の場合、学校教育での運動制限はその後の児の性格形成に大きな影響を及ぼす可能性を 考える必要があります。したがって運動の制限の是非についての判断は、個人差が大きいので 慎重でなければなりません。

(8)発熱
 小児の場合、発熱によってけいれん発作が誘発されることは、よく見られる現象です。ただ この場合に注意しなくてはならないのは、「てんかん」と「熱性けいれん」の区別です。 小児では発熱によりてんかん様の発作が誘発されることが多いようですが、てんかんでは脳 波上に明らかな発作性の異常が認められます。

 これに対して、熱性けいれんは38℃以上の発熱に伴って生じる全身けいれんをいいます。小 児に多くみられ年齢的には1歳前後にピークがあり、5歳を過ぎると極めて少なくなります。 脳波上でも発作性異常の出現頻度は高くありません。

(9)月経
 女性の場合とくに成人女性においては、その生活の中で「月経」とは切り離して考えること はできません。そしててんかん発作は発作型の如何にかかわらず発作の頻度や症状の増悪など が、月経周期に関連して見られることがあります。この月経に一致して起こるてんかんを「月 経てんかん」とも呼びます。

 一般に月経周期に一致した発作は、月経直前から月経中にかけて出現し易くなり、逆に黄体 期(おおよそ排卵から月経開始前までの高温期)には発作が減少しています。これは黄体期には プロゲステロンというホルモン(黄体ホルモン)が分泌されるのですが、このプロゲステロンに は抗けいれん作用があり、このためにけいれんを抑制しているものと考えられています。さら にプロゲステロンの分泌が減少することによって月経が始まるので、この時期に発作が起こり 易くなると考えられているのです。

 また、プロゲステロンの血中濃度が低下する時期に発作が多く出現し、プロゲステロンが分 泌されない無排卵性月経の人のほうが排卵性月経の人より発作頻度が高いことからも、このホ ルモンの影響が大きいと考えられます。

 さらにはエストロジェン(卵胞ホルモン)が発作閾値を低下させる(発作が起こり易くなる) 作用があるという実験の報告や、エストロジェン値が高い時期に発作が増加している例などの 報告もあり、発作はエストロジェンの活性の増加によるとする考えかたもあります。

 しかし、これらの月経周期に関連したホルモンがどのように作用して発作を誘発するのかは明 確にはわかっていません。

 また多くの女性は月経直前の数日間に体重増加をみますが、これは水分が貯留することによ るものです。この水貯留が月経前の発作の要因と考えられたりもしていますが、これについて の確かな証拠もありません。

<対策>
 以上色々お話しいたしましたが、このようなことでのてんかん発作の誘発を防ぐには次のよ うなことに気をつけることが大切であろうと考えます。
  1. 規則正しい生活リズム  十分な睡眠、適度な食事、適度なスポーツ、精神的安定など

  2. 規則正しい服薬

  3. 発作の誘因を十分に理解し、それを避ける。

  4. 周囲のてんかんに対する十分な理解と認識

  5. 誘因を正しく把握して、それをさけるような生活をすることが大切です。

 これらの基本的なことを守ることによって、発作の誘発を防ぐことになります。


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