小児における発作誘発因子とその対策


日本てんかん協会機関誌「波」2月号8-11ページ(2000)
Last updated Jun.20.2001


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小児における発作誘発因子とその対策

埼玉県立小児医療センター神経科 浜野晋一郎




 レノックス・ガストー症候群で有名なガストーの研究では、てんかん発作のほとんどは誘因 がはっきりせず"偶発的"におこると報告されています。それ以外には"周期的"におこる発 作が20%、"反射的"におこる発作が1%であったと報告されています。この反射的におこる 発作はポケットモンスター事件で有名になった光過敏てんかんを代表とする反射てんかんの発 作のことで、刺激と発作の因果関係が特異的で密接です。これに対し"周期的"におこる発作 とは発熱、睡眠不足、性周期、飲酒などで誘発される発作のことで、反射てんかんの発作と刺 激の関係ほど特異的ではありません。今回は"周期的"におこる発作のきっかけとなる刺激で ある"小児てんかんの発作誘発因子"とその対策を中心にお話します。

1)発熱、入浴
 発熱に伴ってけいれんをおこす熱性けいれんという病気があります。どのようにしてけいれ んがおこるのか、はっきりわかっていませんが乳幼児期に多く、100人のうち5-8人と高 頻度にみられることから、小児の脳それ自体が発熱でけいれんを生じやすいと考えられていま す。こどものてんかんでも発熱により発作がおこりやすくなります。乳児重症ミオクロニーて んかんでは、入浴によるわずかな体温上昇でも発作が誘発されます。

 ほとんどの発熱は細菌やウイルスの感染が原因で、咳や下痢などの症状を伴い風邪薬を飲む ことにもなります。後述する様に下痢などの症状や、風邪薬の一部も発作の誘発因子となるこ とがあります。小児期は発熱の頻度が高く、しかもこれらの発作誘発因子が重複します。その ため、発熱はもっとも身近で影響の大きい発作誘発因子といえます。てんかんのこどもたちの 両親にとって発熱は一番の不安の種で、その時の発作予防に関心が集まることと思います。だ からといって普段内服している抗てんかん薬で、発熱によって誘発される発作も完全に押さ え込もうとするのは薦められません。そこまで薬を増やすことは、普段から必要以上に薬を飲 んでいることになるからです。また、発熱が必ず発作を誘発するわけではありません。まれな 例ですが、逆に発作が減少することもあります。ですから、その子の発熱の頻度と発作の誘発さ れる状況、重積にいたる確率を考慮し、ダイアップなどの座薬を中心に一時的な抗てんかん薬 の追加を主治医に判断してもらうことがよいと思われます。入浴による体温上昇が誘因となる 時は低めの湯温、短時間の入浴、シャワー浴だけにすることも必要でしょう。なお、熱性けい れんでは解熱剤による予防効果はないとされています。てんかんでも発作予防の効果は期待で きないようです。

2)下痢、嘔吐
 感染症として急性胃腸炎になれば、下痢、嘔吐だけでなく発熱を伴い、先述したように発作 はおこりやすくなります。嘔吐が続けば普段の抗てんかん薬が内服できず、下痢によっても吸 収は阻害され抗てんかん薬の血中濃度は低下して発作がおこりやすくなります。逆に急激な脱 水によって血中濃度が上昇し眠気がみられることもあります。

 嘔吐が頻回の時は、一日に内服する量の合計はそのままで、細分化してのむこと(例えば1 日2回の内服予定だったら1回分を2回に分けて1/2を4回内服する)で内服しそこなう機 会は減少します。さらに普段は食前後に内服していても、食事と間隔をあけ内服することで嘔 吐の危険を減少できます。吐きやすい時に一度に沢山のものをおなかに入れれば、より吐きや すくなることは想像に難くないでしょう。薬も水分も小分けすることが基本です。

 内服直後に嘔吐した場合は再投与を試みることが必要です。しかし嘔吐した直後にまずい薬 を飲むのはつらいものです。時間をあけておなかを休めてあげましょう。内服後どのくらいの 時間以内の嘔吐なら再投与すべきかという明確な目安はありません。薬の種類、前後の食事内 容でも吸収は変化するからです。おなかの動きの悪い時ならなおさらです。先述した様に、時 には血中濃度が上がっている可能性もあり、水分摂取が不十分なのに薬だけをあげることがよ いとは限りません。内服を強いることは、さらに吐く機会を増やすことにもなりえます。です から、吐物中にはっきり薬だとわかるものがなければ再投与しなくてもよいと思います。

 一部は座薬で代用できますが、下痢も伴う場合はその頻度と程度で対応が異なります。さら に、多剤併用の場合では薬物動態がより一層複雑となます。いつも飲んでいる薬の種類、剤形 下痢と嘔吐の程度、普段の発作の種類と頻度によって対応は大きく変わります。発作が頻発し たり、呼びかけに反応せず眠っていることが多くなったときは主治医との相談が不可欠です。

3)睡眠不足、睡眠覚醒のリズム
 睡眠中にしか発作をおこさないてんかんがあることや、睡眠時の方が脳波異常が明らかにな ることから睡眠とてんかん発作の強い関連性は昔からわかっていました。発作誘発因子として は睡眠不足、睡眠覚醒リズムの変調があげられ徹夜で勉強した翌日の登校途中に発作をおこし たなどとよく外来で耳にします。睡眠不足につづく眠気が発作をおこしやすくするようです。 抗てんかん薬でも種類や量によっては眠気が増強し、かえって発作の頻度が増すこともありま す。眠気があるときに脳波異常が明らかになることが多いことからもうなずけます。

 同じ8時間の睡眠でも夜10時に就寝した場合と、明け方4時に就寝した場合では睡眠の質は 異なり、後者の場合は8時間眠ったにもかかわらずその後も眠気が残ります。また、充分で適 切な睡眠時間はひとによってかなり差があります心配のあまり過剰な睡眠をとることは無意 味で、量より質が大切です。勉強、仕事によっては困難な場合もありますが、できるだけ毎日 のリズムを規則正しくし、睡眠の質を維持することが大切と思われます。やむをえず、深夜ま で起きていた場合には、発作が起こりやすいこと考えて行動し、できるだけ睡眠不足が続かな いようにすることが大切です。

4)精神的緊張、ストレス、疲労
 いくつかの調査で"緊張"、"不安"、"怒り"などの情動的変化が発作を誘発すると報告 されています。しかし先の湾岸戦争下の調査では、外的要因による画一化したストレスは発作 頻度にあまり影響を与えないとする報告もあります。精神的緊張、ストレス、感情といったも のは一定の尺度で評価するのは困難です。また同じ人に同じ様なストレスが加わっても、その 人の状況や時期によってストレスの程度も質も変化します。さらに感情的、精神的ストレスは 個人的な資質によって、その影響は全く異なります。生きていくということはストレスを受け ていくことに他なりません。発達を促す適度な刺激、軽度のストレスに慣れ、耐えられる心を 養うことが最善の方法かもしれません。

 疲労時も発作は増加することが多いようです。しかし疲労を招く精神的ストレスと肉体的 ストレスは緊張からの解放と眠気を伴い、これらも発作誘発因子となり得るため、疲労が直接 発作を誘発するかははっきりできません。むしろ適度な肉体的疲労は過度の精神的緊張を改善 し、良好な睡眠に導くこともあります。先程近べたようにこどもが発達する上でストレスや疲 労を避けて通ることはできないのだから、疲労と上手につきあうことが大事です。

5)テレビゲーム、テレビ
 反射てんかんである元過敏てんかんでなくても、テレビゲームの最中や後で発作が見られる ことがあります。脳波上で光過敏性が明らかでないのに発作が誘発された場合は、テレビゲー ムそのものが発作誘発因子であるよりも、他の多くの誘発因子が関与している可能性も考えら れます。すなわち、ゲームを長時間続けることによる疲労、睡眠不足そして緊張と緩和といっ た情動面の変化などが関与しているかもしれません。現代のこどもたちにとってテレビゲーム はもっとも身近で大切な娯楽の一つとなっています。友達とのつながりの上で極端な制限は不 可能でしょう。しかしテレビゲーム中や後での発作を繰り返す場合には、光過敏性がなくても 1日2時間まで、30分したら10分休むといったようにある程度の制限をすることは必要と思わ れます。テレビに関しても同様です。深夜までテレビを見て睡眠不足になれば発作は起こりや すくなります。さらに、てんかん性の発作でなくてもポケットモンスター事件の時にみられた ように、映像によっては気分不快、嘔吐、頭痛といった自律神経症状を招くこともあります。 しつけの面から考えても、元過敏てんかんの場合に限らず、時間を決め、部屋を明るくして、 画面から離れて視野全体を画面が占めないように視聴させるべきでしょう。

6)薬剤
 抗てんかん薬の急激な中止は発作を起こします。思春期になると、親の管理から離れ、勝手 に怠薬してしまうことがあります。現在の社会状況では、多くの保護者が病名告知に抵抗感を 持つのは当然です。しかし、本人がその薬の価値を知らずに怠薬し不利益を被ることもありま す。中学以上で抗てんかん薬を継続する確率が高い場合には主治医と病名告知の時期と方法を よく相談すべきです。

 抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬や抗精神薬の一部にはけいれんをおこりやすくする作用が 知られています。先にふれたように眠気が誘発因子となるため、眠気をもたらす薬は発作を誘 発しやすくなります。また、薬物相互作用といって薬同士がそれぞれに影響しあい、お互いの 効果を強めたり弱めたりすることがあります。抗てんかん薬同士でも相互作用によって効果が 変化することがあり、多剤併用になると一つの薬の変化が全体を大きく変えてしまうこともあ ります。さらに同じ薬品でも製剤の変更、たとえば散剤から錠剤への変更や製品の変更によっ ても血中濃度が変化することもあります。ですから引っ越しなどで病院や調剤薬局が変わった ときには注意が必要です。いずれにしても普段内服している薬品名と量を知っておくことは不 可欠で、何か疑問があれば主治医か薬剤師に確認をとるべきです。

7)反射てんかん
 光、図形などの視覚刺激、聴覚刺激の他に最近では、特定の運動、読書や計算なども誘因と なる反射てんかんもわかってきました。このように話すと、多くの人がいろいろな出来事を発 作と結びつけて反射てんかんと考えてしまうかもしれませんが、てんかん全体の中では大変ま れなものです。反射てんかんでは誘因を避けることにより、抗てんかん薬を最小限にできる場 合もありますが、避けがたい誘因も数多くあります。誘発因子の種類に応じて、その因子を避 ける生活と抗てんかん薬の内服による治療のバランスを主治医と相談することが大切です。

おわりに
 反射てんかんの誘発因子も含め、発作誘発因子を考慮し、それらを遠ざけることは抗てんか ん薬の使用を必要最低限にできる長所もあります。しかしここで述べた多くの発作誘発因子は 反射てんかんの誘発因子とは異なり、発作がおきやすくなることがある因子ではあっても必ず おこすとは限りません。ですから発作誘発因子に対して、むやみやたらに不安になり、誘発因 子全てを遠ざける必要はありません。むしろ過度にそれらを遠ざけることは、こどもたちを普 通の暮らしからも遠ざけることになります。誘発された一回の発作、一時的な状況に過度にこ だわらず、こどもたちの日常生活の状況、就学状況をふまえて、普段の薬と臨時の薬をうまく 使い、てんかんとその発作誘発因子とつきあっていくことが大切です。


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