小児科から精神科への切り替えについて

国立療養所静岡神経医療センター・第一精神科医長 工藤 達也



(社)日本てんかん協会機関誌「波」2003年4月号pp.114

Last updated May.3.2003



1. 成熟に伴って変わる治療

 幼小児期の発作症状は成人と比べ非定型的で、少なくないてんかん症候群が年齢と関連し て発病し、病因の分布も加齢で変化します。身体の成熟に伴い薬物効果に関与する薬物の生体 内の動態-吸収、分布、代謝・分解、排出-も変化します。さらに、種々のライフサイクル論 があり、例えば永井均氏が子どもは森羅万象が現にこうあることに驚き、青年と大人はそれぞ れ人生と社会の中での態度・行為の決定の仕方を問い、老人は死をそしてふたたび存在の不思 議さを考えると述べているように、発達に伴い精神的な構えが変化します。

 これらによる小児と成人の治療の変化に加えて、精神医学を必要とする治療には次の場合が 考えられます。

2. 精神科的障害

 てんかんに合併する精神科的障害は、感染症のように薬物で急速に治癒したり、「悟り」で 一挙に消滅するものは少なく、多くは向精神薬、精神・心理療法、家族の支え、リハビリテーシ ョン、生活支援を必要とする、軽快に時間のかかる病いです。てんかんの精神科的障害を、次 の観点から分析することが治療には必要です。

 内容から神経心理学的障害(失語、失認、失行、記憶障害)、知的障害、気分障害(躁欝、 気分変動)、精神病性障害(幻覚、妄想)、いわゆる神経症圏の障害、性格・行動障害があり、 てんかん発作との関連から発作と関連(発作前・中・後)する群と関連しない群に、原因か ら脳障害性、てんかん原性、抗てんかん薬性、心因性(環境因、性格因)、原因不明に分けられます。

 てんかん発作との鑑別が必要なものに心因性非てんかん発作があります。心因性非てんかん 発作とてんかん発作では治療において異なる心構えが必要です。早期に診断すべきものに抗て んかん薬による幻覚・妄想状態、感情障害などがあります。側頭葉てんかんの内側型や皮質形 成異常による症候性局在関連てんかんは外科治療が有効です。発作の消失は精神病性障害の有 無とは無関係に患者に利益をもたらします。てんかんに履病していること自体が精神障害の心 因になっている難治てんかんでも外科治療は考慮されます。個々の精神状態にもとずいて外科 治療の適否を決め、治療の完遂を援助すべきこともあります。性格的要因による行動の障害は、 通常、てんかん発作と関連しません。

3. 治療場面で睨れる逸脱行動

 人が自律的に生存し、しかも錯誤・迷妄・妄想ぬきに外界と関係するのが困難なこと、その ため自律的であろうとする努力を支持し成長をまつ知恵を、精神医学は教えています。精神科 治療は、ある意味では、ひねた形で表現される個体の独立心を上手に理解することです。対話 を手がかりに自律を促す支持・援助を原則としながらも、短期的には逸脱行動を防止するため 患者の責任を明確にすることがあります。その場合には、患者と家族が耐えられる葛藤の程度 を判断しなければなりません。

4. 治療における彷徨と定着

 自律的大問による医療契約という考えは有意義ですが、目先の利害を優先させるあまり長期 的な治療を困難にする危険があります。

 例えば、難治な心因性非てんかん発作では、患者と家族が困難さに向かい合うことが必須 で、その時に医師と患者の問に葛藤が生まれる傾向があります。患者と家族は症状が好転しな い理由を「心理的な原因であろうが治すのが医者の仕事だ」と医師の無能さに求め、医師は 「患者と家族がしっかりしなければ」と患者と家族の態度を厄介に思いかねません。患者は不 信のあまり医師の間を彷復し、医師は手のかかる患者を厄介払いすることもあります。患者と 家族が相性の合う医師のところで悪循環を断つことが大事です。

無断転載はお断りします。All copyright 2000- JEA, All Rights Reserved
[前のページへ]