成人になった小児神経外来のてんかん患者

関西医大男山病院・小児科 杉本 健郎



(社)日本てんかん協会機関誌「波」2003年4月号pp.115

Last updated May.3.2003



 下の表は二〇〇〇年に関西医大小児神経グループが調査し、日本てんかん学会で発表した成人のてん かん患者の実態です。調査した主治医は全員が一〇年以上小児神経を専門として外来診療をしていま す。発症時期は平均が六歳で全員が一六歳以下でした。

 特徴として七割近くの人に明瞭な知的障害がありました。しかも今なお六割の患者に発作がおこって いて、その多くが難治性です。一〇年以上のてんかん発作とのつきあいがあるのですが、一部に薬の名 前や量を知らない人がありました。当グループとしては、できる隈りとの病院でもしっかりと情報公開 しているつもりですが、残念な結果でした。病気の認識や治療法の選択を本人ができる人が三割で、両 親、特に母親の意見が反映されたものでした。

 もう一つの問題は、残る三割の、自分で十分判断出来る力量を持った患者の場合です。子どもの頃か らの習慣のまま、母親中心の診療になってしまっています。「今に治るから」と思い、「子どもには病気 のことを話さなくてもよい、むしろ隠していたい」という家族が学童期発症の患者に多くみられます。 主治医も「まあ、お母さんに任せましょう」で終わって治療を継続します。そのうち思春期を迎える頃 になって「私の病気はなに?」と本人。発作が続いている人や、一度減量や中止し再発した場合は、本 人の訴えが前面に出てきます。小児科医としての弁解になりますが、この背景には、学童期に病名を本 人告知し、学校にも連絡すると、様々な催しに常に診断書の提出や学校側の「過剰防衛」に遭います。 そのたびに担任や保健の先生などに話をすることになります。「てんかんとは」から始まり、親の了解 のもと、学校へ正しい知識を話そうとするのですが、かなりの時間を要すること、学校での引き継ぎがし っかり行われないことから毎年同じことの繰り返しになります。これはかなり煩雑なことです。

 こんな経験から、知的障害のない場合や難治性症候性てんかんでない場合は「周りには黙っておこう」 という方針になります。小学校時代に治療が終われはそれでも良かったのですが、前頭薬て んかんや側頭薬てんかん児の場合はそうはいきません。表の知的障害がなく年齢 が成人に達した患者は多かれ少なかれ、本人へ改めての告知が必要になってきま す。しかもこれが、一筋縄でいかない状況になってからになるのです。

 表の最後に「このまま小児科で治療することを希望しますか?」の問いに対し て、九五%が「はい」と答えました。我々小児神経科医の心中は複雑です。「小 児科の卒業」を勧めても、「いいえ、このままで」と言われれば、「嫌です」とは言 えません。やはりここは意を決して適切な精神科医師にバトンタッチしなければ いけない方があります。

 器質的な脳障害を持った患者の場合は、小児神経科医がしっかりと受け止めていくべきです。特に重 度重複障害の成人の患者は、歴史的にはこれまで入所施設へ入り、地域で自活することが殆どありませ んでした。しかし、運動で作られた小規模作業所が地域に点在するようになり、さらに厚労省の方針と して、入所施設からグループホームヘと障害者自身の自活がうたわれるようになってきています。

 子どもの頃から診てきた小児神経医が、障害者が居住する慣れ親しんだ地域で快適な生活を送れるよ うにサポートすべきです。てんかん治療だけでなく、自宅での生活相談や通所施設での嘱託医としての社 会的使命があると思います。日本小児神経学会(会員三三〇〇人余)は、障害児者の学齢期から卒業後 までもしっかりと専門的サポートできるネットワーク作りをめざし、二〇〇二年六月に「社会活動・広 報委員会」を立ち上げました。ご期待下さい。


表:関西医大関連病院小児神経外来での愚者調査
時期   2000年3月-8月
方法   外来受診時に主旨を話し、アンケート用紙を渡す(返信用封筒添えて)
対象年齢 19歳から44歳(平均年齢25.8歳)
回収率  95%(63/66)
回答数  63人(性別男性30人、女性33人)
本人の記入 15人(24%)残りは父母が記入
常勤職11人、非常勤職5人、学生2人、小規模作業所
適所21人、法人更正・授産施設適所8人、在宅10人
てんかん分類 全般てんかん6人、局在関連てんかん57人
抗てんかん薬服用 63人(100%) 薬剤数1-6(平均2.6剤)
合併障害知的障害 43人(68%)、運動障害20人(32%)
てんかん病名   100%知っている
薬剤名      知らない8人、一部しか知らない5人
薬剤投与量    知らない8人
服用中の薬剤副作用の知識 知らない17人、もっと知りたい37人(59%)
てんかんについて もっと知りたい40人(63%)
てんかん協会を知っている 23人(37%)、入会している2人(3.2%)
このまま小児神経外来で治療を希望 60人(95%) 3人は「わからない」


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