てんかんと精神症状

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Last updated Jan.29.2004



一. はじめに

 精神症状といってもいろいろなものがあり、てんかん発作そのものから不機嫌などの性格変化、精神 病状態まであります。てんかんと精神症状は表裏一体の関係にあり、精神症状とみえても発作症状であ ることがあり、両者は分かちがたく結びついています。今月号の精神神経誌に発表されたマックラヒア ンの統計によると、三〇〇例のてんかん患者を詳細に調べて、四七%に精神症状の所見がみられ、この うち二九%が精神障害であり、残る一八%は性格変化などの人格障害であったといいます。このことか らもてんかんの治療は精神科医のかかわりが重要となります。てんかんの精神症状で強調したいことは、 てんかんの経過と同じようにてんかんの精神症状は、三〇歳、四〇歳と年齢とともに弱まってくるこ とです。このため、精神症状があるからといって決してあきらめないで、根気強く闘っていくことです。 またよく誤解されることとして、てんかん性格という生まれつきの性格はないということです。てんか ん性格は差別用語で、正しくはてんかん性格変化、行動変化と呼ぶべきです。つまりこの性格変化はて んかんが治るとなくなります。このためてんかん性格変化はてんかんという病気によってもたらされた 一過性の変化とされます。

二. 抗てんかん薬による精神症状

 発作を止めようとして、過剰に抗てんかん薬を使いますと、発作は止まっても代わって不機嫌症や精 神病状態が出現します。とりわけ精神病状態が出やすいのは、側頭薬てんかんで、フェニトイン(アレ ビアチン)、ゾニサミド(エクセグラン)などの大量の抗てんかん薬投与で発作は止まりますが、代わ って精神病状態が出現することが多くあります。精神病状態とは、例えば誰かが自分のことを悪く言っ ているので、その人を攻撃しなければならないとかの妄想などです。またフェノバルビタールを多く服 用しますと、眠気が強く出て、正しい判断力ができなくなり、稀ならずうつ病が出現し、さらにひどく なるとひきこもり、錯乱状態を呈することがあります。まれですが、バルプロ酸も多く服用すると、高 アンモニア血漿になり、ぼ1つとした無気力状態になります。またクロバザム(マイスタン)、クロナ ゼパム(リボトリール)などのベンゾジアゼパム系の抗てんかん薬は、最初は少量でよく効きますが、 馴れが生じてきて効きが悪くなり、さらに増量するとまた効き始め、次第に投与量が増加します。これ らのベンゾジアゼパム系の薬物が高用量になりますと、ぼーっとし、元気がなくなり、流涎などがひど くなります。このように無理して発作を止めようとして、抗てんかん薬を過剰に投与しますと、発作は 軽くなりますが、耐え難い精神症状の副作用に悩まされます。

三. 発作放電による精神症状

 精神発作といわれる精神症状そのものが発作となるものとして、幻聴、幻視、幻臭などの単純な感覚 の要素的な幻覚があり、また見ているものが違ってみえてくるなどの錯覚があります。これらの発作は 統合失調症でみるような幻覚、錯覚と違って、そのものに意味をもたず、命令してくるような内容とは 違います。またより複雑な精神発作として、見えるものがなんとなく懐かしいような光景にみえるデジ ャ・ヴュ発作やいつも見慣れているものが奇異な光景にみえるジャメ・ヴユ発作があります。これらは てんかんの初発症状として、単独で出現することがありますが、精神症状ではなく、てんかん発作の一 種であることに注意が必要です。

 発作放電が多発すると、精神病状態を呈することがあります。全般てんかんでは、棘徐波が多発する と、ぼーっとして、意欲がなく、寝ているのか、起きているのかわからないような状態を呈することが あります。このような場合、ベンゾジアゼパム系の薬を眼前に服用し、覚醒-睡眠リズムがはっきりす るように、処方すべきです。

 側頭葉てんかんで、発作間欠期放電が多くでていると、それだけ性格変化が多くみられます。その発 作放電をなくそうと抗てんかん薬を多く使うとそれだけ性格変化は強くなります。また普段の頭皮上脳 波でなく、深部脳波でみますと発作放電が連続しているのに、発作がでなく、精神病状態だけみること があります。もし側頭薬切除術で発作が止まり、発作放電もなくなりますと、性格変化が改善し、穏や かになります。

四. 脳外科治療による精神症状

 脳外科治療で最もよく行われている側頭薬てんかんに対する側頭葉切除術を例にとりますと、手術前 に精神症状があった人は、手術後に精神症状が出現する確率が高くなります。このために手術前に精神 症状をもっていた人には慎重に手術しなければなりません。とりわけ手術後にも精神症状が出現しやす いことを、本人、家族に告知し、同意をとらねばなりません。

 しかし、手術によって発作が抑制されると、精神症状も軽くなることが経験的に知られていますの で、精神症状があるからといって、手術は禁忌となりません。ここで注意すべきは、手術後にもこまめ に抗てんかん薬、安定剤の服用が必要です。発作が止まったからといって薬を飲むのをやめ、病院にも 行かなくなると、精神症状は悪化します。

 まれに手術前に精神病状態がなかったのに、手術後になって発作が止まって、新たに精神病状態が出 現することがあります。この原因はまだ解明されていません。このときもあきらめずに、根気よく病院 に通うと次第に良くなります。

五. 家族の対応

 てんかんを持つ患児を育てる家族の場合、患児がてんかん発作を起こすところをみると、居ても立っ てもおれず、かわいそうになり、つい過保護になってしまいます。親が過保護に育てると、どうしても 患児は甘えがでて、自立の妨げになります。

 こういった患児が思春期を迎え、異性への性の目覚めがくる頃になると、親に反抗的になります。ま た障害をもった患児の場合、異性への関心が遅れてきて、二〇歳を過ぎた頃に来ることもあります。従って 反抗期が遅くまで続き、このため親への甘えの裏返しである攻撃がなかなか止まないことがあります。親へ の反抗が強いときには、家族の方はできるだけ本人の自立をうながすように、本人自らが社会に参加してい けるように援助していくことが大事です。

 親への理不尽な要求があるときは、それは親への甘えであることが多く、親はきっぱりと拒絶すべき です。しかしてんかんの多くは意識がなくなる病気ですので、本人が気づいていないところで失敗をす ることがあります。例えば、発作があって、自分で薬を飲んだのかどうか忘れてしまったりすることが あります。このような場合には親の適切な援助が必要となります。

六. おわりに

 てんかんで精神症状をみるのは最初に述べたように、てんかん患者さんの約半数にみられます。この ようにてんかん患者さんの多くは、てんかん発作以外にも精神症状という二重のハンディキャップに悩 まされます。このためてんかん患者さんは薬を飲んでいれば、それでよいという訳にいかず、さまざま な支援を受けることが必要となります。

 このためてんかん患者を支援するのは、医師だけでなく、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士など の支援が必要であり、最近ではてんかん患者さんにもヘルパーの援助が認められ、また障害者同士が助 け合う、ピアヘルパー制度も確立され始めています。

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