職場の不適応


街角の専門医110 日本てんかん協会機関誌「波」5月号22ページ(1993)から Last updated Jul.8.2001
Aug.2.99からのこのページへの訪問者数は 人です

職場の不適応

笠松病院副院長 金山隆夫(秋田市)




 職場で適応できない原因の一つに、人間関係がうまくいかないことが挙げられ ます。理解がない上司や同僚がいる等の外部条件による場合もありますが、自分 の気持ちの問題であることも多いと考えます。

 慢性の病気をもつ人々に共通の心理として、他人が自分をどう思っているかに 敏感になり、「どうせ自分なんて…」とひがみ易くなる傾向があります。病気 とうまく付き合ってゆく為には、自分の病気に対して正確な知識を持つことが必 要であり、どうすれば良い状態を保てるかに常に気を配っていかなければなりま せん。その上、他人とうまく付き合っていかなければならないというのですから、 並大抵の事ではないと思います。しかし、始めからすべてうまくいく人のほうが少 ないのです。一つ一つ着実に進歩していくことが必要です。

 脳波で測頭葉前部に棘波を持ち、単純部分発作(上腹部の異常感覚)から意識 の減損する複雑部分発作に移行する側頭葉てんかんの高校一年生のA君を診るこ とになりました。意識減損の発作が十分に抑制されないため、友人や先走からも 病気持ちとみられており、本人もそのことで捨てばちな気持ちになっており、服 薬も不規則でした。

 診察場面では、明るくはあっても表面的で、他人を茶化すような言葉をしゃべ り、病気のことについても真剣に考えてくれませんでした。三種類の薬剤を単剤 にした為、眠気などの副作用が減ったこと及び入院時に、自分よりも小さな子ども が一生懸命に発作と闘っていることをみて病気に村し真剣に取り組む姿勢がみら れ始めました。

 カルバマゼピンで複雑部分発作は殆ど認められなくなり、一年後には上腹部の 込み上げる感じだけとなり、それも1〜2秒で終わる程度になりました。発作頻 度はかなりありましたが、周囲から見て発作があったかどうか分からないことよ り本人なりに日常生活に自信を深め、きちんと服用するようになり、発作も減少 するようになりました。

 単純部分発作が月に数回程度になった頃に高校を卒業し、東京へ出、自分の希 望する職業につきました。一年の見習い期間の後、A君は数人の人を使う立場に 就くようになりました。ずっと東京にいるために、診察はお母さんを介して行っ ていましたが、久しぶりにA君自身が休みをとって診察にみえた時に、「人を使 うというのは難しい。昔の自分であったらとても勤まらなかった。病気のことを 含めて、いろいろと勉強したことが今は非常に良い体験になっている。」と明る い顔で話をしてくれました。幸いに発作も殆ど認められなくなっておりました。

 てんかんをもつ人には特有な性格があるといわれておりますが、実際には発作 が止まらないために歪められた性格になっていることが多いものです。A君の例 はこの事を私に教えてくれました。前向きに病気に対処する過程で精神的に成長 していくことが社会人に必要な協調性を身につけさせ、これが職場での適応力を 増すことにつながって行くと考えます。


無断転載はお断りします。All copyright 2000- JEA, All Rights Reserved
[前のページへ] [JEPNETのホームページへ]