小児科の特徴


国立療養所再春荘病院(熊本県)小児科 石津棟暎


日本てんかん協会機関誌「波」10月号285-287(2003)から

Last updated Oct.31.2003
Oct.31.2003からのこのページへの訪問者数は 人です

1. 小児科でのてんかん診療の特徴
 小児期にみられるてんかんには多くの種類があります。よく知られているように、てんかん は特発性、症候性と全汎性、局在性の組み合わせで分類されています。このことはこれまでに も多くの特集や記事があり、今回は触れません。これらの基本的な分類に基づいた上で、さらに 個々の例においては発達面での合併症などへの考慮が必要です。

 小児のてんかんを考える上で重要なことは発達障害のない場合、知的障害を伴っている場合、 知的障害のない、もしくは軽度の運動障害(主に脳性まひ一、重症心身障害などの発達面での 合併症を考慮する必要があることです。経過をみていくとき合併症を考慮した視点がとても大 切です。

 分かり易い例で考えると発達障害のない小児と重度の重複障害児にみられるてんかんは全く 異なった考え方が必要だということです。このように考えたときにどれくらいの割合で障害の 合併がみられているかを私の現在治療中の例を示します。(図1)



 発達障害のない例、運動障害のない知的障害例、重症心身障害を含む運動障害合併例がほぼ 同じくらいの割合で存在します。小児科におけるてんかん診療上では発作の問題のみではなく 多くの他の要因を考慮すべきです。また知的障害例の約1/4に、自閉的な問題の合併が認め られました。これらの割合は各施設で異なると思いますが共通の問題です。

 小児科で診察をしている年齢層に関しては小児例が多いのは当然です。てんかんの種類はさ まざまですが、多くは小児期に発症しています。発症年齢に関してはいろいろな報告がありま す。約半数以上が幼児期に、四分の三くらいまでが学童期に発症、そして二〇歳までに大半が 発症しています。しかし発症年齢を考えるときにも合併する発達障害の問題を無視できませ ん。図2に私の施設での例を示します。重度の障害を持つ例では多くは一歳までに発症してい ます。発達障害の無いグループでは、障害のある例のグループよりも発症年齢が遅くなってい ます。特発性に分類されている通常学童期以降に発症することが多い小児失神てんかんや、良 性のいわゆるローランドてんかん、若年性ミオクロニーてんかんなどが含まれているために当 然の結果です。知的障害のみの例ではこれらの中間の発症年齢です。(図2)




2.てんかん診療上での現状と問題点
 小児のてんかん診療の現状を考えるとき、地域的な差異がかなりあり、すべての地域にあて はまる現状を述べることは困難ですし、資料に基づいて述べることも困難です。私の地域での 実情を踏まえ整理してみます。

 まず問題になるのは年齢、発達障害の程度、難治度です。合併する障害を中心に考えると、 重度重複障害では多くは小児早期発症で小児科が対応しています。この場合、多くのてんかん 以外の合併症、筋緊張、摂食障害、呼吸障害などの問題を伴い総合的に対処できる病院の小児 科で経過を見ていくことが大切です。

 知的障害を有する例では、多くは症候性てんかん一一部は潜因性一であり難治例が多く見ら れますがすべてが難治ではありません。同様に多くは小児期発症であり、小児(神経一科が関 わるべきです。このグルiプには、点頭てんかんやその既往のある人、重症ミオクロニーてん かん、レンノックス・ガストー症候群などのグループが含まれています。

 また広汎性発達障害(PDD)(自閉症など)の合併やPDDに限らず知的障害、てんかんと 行動、社会内閲わりの問題を有する人もかなりの数になり、診察していく側が十分な理解をも つ必要があります。

 児童精神科医や療育関係スタッフが共に関わることのできる施設が望ましいのですが、現実 的にはそのような条件を十分に満たしている施設は少ないでしょう。このような場合は児童精 神科医等の助言を受けながら対応するか、精神科医の診察に移行していくことが適切な場合も あります。

 年齢を中心に考えると、新生児、乳児期早期のけいれん、てんかんは多くの基礎疾患が存在 し、おもに新生児の医療に関わっている小児科医(新生児科医)が対応することが適切です。 次の時期に起こってくる点頭てんかんに関しても、初期の治療方針はほぼ確立しているので、 総合病院の小児科医で担当することが可能だと考えます。基礎的な知識があれば、適切な対応 ができると思います。

 てんかんは小児科領域ではかなり一般的な疾患です。小児てんかんに関しては基本的には小 児科、小児神経科が関与した方が適切であると考えます。すべてを小児神経科医が対応すべき とは考えていません。ただし初期の基本的な治療で十分なコントロールができなかった場合は 小児神経科医の関与が必要となると思います。外傷や脳腫瘍との関連のある場合は脳神経外 科医が担当することは適切な選択だと思います。同様にてんかんに特別の行動異常などを伴 わないかぎり基本的には小児科医が担当することが必要だと考えています。

 もう少し年齢が上がり、発達の障害を合併しない特発性の例、失神発作や良性の部分てんか んなどがみられるようになってもおおくの場合、一般の小児科医が適切な対応ができると思 いますが現実的には適切な診断がなされていなかったり、十分な説明がなされていなかったり していることがあり、セカンドオピニオンが必要であると感じることもあります。

3.小児期を週ぎ成人に達したあとの診療について
 この問題も障害の程度、種類とてんかんの分類、難治度で考えていく必要があります。

 重度の重複障害を合併している人におけるてんかんでは難治例が多くの場合であり通常成人 に持ち越していきます。薬剤による十分なコントロールが困難な例が多くみられ、適切な妥協 点を見つけ多剤併用にならないように注意することも必要です。このグルーブでは合併症の問 題を含め障害児とかかわっている小児科医、小児神経科医が診察を継続していくことが適当と 考えます。

 知的障害があっても精神面、行動面に問題や向精神薬の必要性の少ない人の場合は、それま での主治医との信頼関係を重視すればそのまま小児科医での治療もよいと思われます。私の場 合、特別の問題なく継続治療を行なっています。精神、行動面での問題が前面に出る場合は精 神科医師の協力や転医が必要なときもあり地域での協力体制を考えておく必要があります。 知的な障害のない例では特発性てんかんである場合が多いのですが、これらの例のうちで、 小児の良性の部分てんかんは成人に持ち越すことはなく、また小児失神てんかん、若欠神てん かんも成人期に持ち越す問題は少ないと考えられます。

 しかし発達障害のない例でも成人にもちこすことがあり、このような場合にいつまで小児科 (小児神経科医)が治療を続けていくべきかが大きな問題となります。

 問題の一つに知的障害のない人の症候性(あるいは潜因性)てんかんがあります。代表的な 例は側頭薬てんかんです。側頭薬てんかんで難治性あれば、てんかん外科の専門施設に相談し てみることが必要ですし、精神症状を伴う例では精神科医の対応が望ましくなると思います。 また別の問題ですが小児期に発症し成人に達した発達障害のない人では、てんかんというだ けで精神科を定期的に受診することに抵抗がある人がかなりいます。このような人のなかには 精神保健福祉法三二条の適用申請すらしたくないという人たちもいます。

 思っている以上にまだ精神科の壁は高いと思います。このような場合では、小児期より治療 を継続しているのであれば小児科で対応を継続した方がよい人もいると考えています。


 いずれにしても主治医との信頼関係の中でだれが責任をもって治療の主体を担うかを考えて いくべきであると思います。必要に応じて適切な他科への移行ができる地域内での協力体制を 作っていくことも重要なことです。


無断転載はお断りします。All copyright 2000- JEA, All Rights Reserved
[前のページへ] [JEPNETのホームページへ]